ピットクルーのお仕事はピット内だけにあらず。
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ピットクルーと言えば、F-1のタイヤ交換やってる人たち。ルマンなどの耐久レースでクイックチャージャーで燃料入れてる人たち。
そんなイメージでしょうか。
でも、バイクのアマチュアレース(=草レース)でのピットクルーは、ちょっと印象が違います。特に、テイストオブツクバや筑波ツーリストトロフィーといった、スプリントレースのピットクルーは名前こそ「ピット」とついていますけど、実際にはピットでのお仕事はほとんどありません。
えーまじで?
はい、えらくマジです。
ピットクルーのお仕事は、率直に言えば
ライダーが最高の状態でグリッドに立てるように
ありとあらゆるお手伝いをすること
にあります。ね、ライダーがグリッドに立ってしまえばもう我々(ピットクルー)ができることはほとんどないんです。スプリントはせいぜい10週~12週ですから、レース中にピットに入ってきたらもうレースとしては難しい状況だってことです。じゃあ、ピットクルーのお仕事って?
では見てみましょう・・・
ピットクルーのお仕事その1:荷物とバイク運び。
いきなり地味ですが、実はこれが最大にして最重要なミッション(?)です。
レース当日。楽しくも慌ただしい、実はあっちこっちに移動する機会が多いんです。
タイミング | 移動経路と目的 | 持ち物 |
朝イチ |
拠点(ガレージ又はテント)から車検場への往復 |
バイク本体、アンダーカウル、ヘルメット、レーシングスーツ、グローブ、ブーツ、脊椎パッド、チェストパッド、ヘルメットインナーキャップ等・・・ |
---|---|---|
車検後 |
拠点から暖気場への往復 |
バイク本体、フロントスタンド、リアスタンド、発電機、タイヤウォーマー等・・・ |
予選前 |
拠点から予選待機場所への移動 |
バイク本体、フロントスタンド、リアスタンド、発電機、タイヤウォーマー等・・・ |
予選後 |
ピット出口から拠点への移動 |
バイク本体、フロントスタンド、リアスタンド、発電機、タイヤウォーマー等・・・ |
決勝前 |
拠点から暖気場への往復 |
バイク本体、フロントスタンド、リアスタンド、発電機、タイヤウォーマー等・・・ |
決勝直前 |
拠点または暖気場から決勝待機場所への移動 |
バイク本体、フロントスタンド、リアスタンド、発電機、タイヤウォーマー等・・・あとドリンク・タオル・日傘もあるといいかも |
決勝後 |
ピット出口から拠点への移動 |
バイク本体、フロントスタンド、リアスタンド、発電機、タイヤウォーマー等・・・ |
うーん・・・書いててこんなに移動が多いとは思わなかった!
で、移動距離も結構あります、筑波サーキットでBパドックになんて拠点を構えたときには移動だけで一苦労です。
そうです、結構苦労なんです、ライダーにもの持たせたりバイクを押させてはダメ!腕が疲れちゃいます。大抵の場合、台車を用意して
- 台車に発電機、必要な工具、各スタンド等を載せて一人が持って
- マシンをもう一人が押して
- ライダーはヘルメット等装具だけを持って(本当はヘルメットすら持たせたくない)
という体制になります。手慣れたチームですと、アルミ製の折り畳みのリヤカータイプの台車を使ったり、工業用の大型台車を使ったり。以前、ホテルでポーターさんが使うような運搬機(上半分が洋服掛けになってる)を使ってるチームを見て感心したことがあります。
と、いう事でピットクルーの最大にして最重要なミッション、荷物運びのご紹介でした。
ピットクルーのお仕事その2:タイムキーパー。
レースは分刻みで進行します。
先にご紹介した「お仕事その1」にある表のとおり、レース当日は(例えば小排気量クラスなどは午前中で全行程が終わるくらい)分刻みのタイムスケジュールで進行します。ライダーは先の表以外にもライダーズミーティングへの参加など、イベント?が盛りだくさんです。
レースで禁物なのは「焦り」。
時間が足りなくなってバタバタすることは、出来るだけ避けなければなりません(私はよくバタバタする)。
また、レース進行はちょっとしたアクシデント(予選での転倒、天候の急変など)で遅れることがしばしばあり、その場合今○○クラスの予選は30分遅れで、でも主催者は決勝は15分遅れで進める見通しと言っている・・・など、ころころ変わる状況をきっちりと押さえてライダーに伝達する必要があります。
雨が降ればタイヤ交換、予選で転べばマシンの修復と飛び込み作業が発生した時にあと何分作業に集中できるか、なんてとこも考える必要があります。
ピットクルーのお仕事その3:マシンの整備。
待ってました、やっとピットクルーらしいお仕事ですね。
実際には当日アレコレやっているようでは先ば思いやられますので(エンジン開けてる人もたまにいますが・・・それは私です)、整備というよりも最後の軽作業って感じです。例えば
- ワイヤリング
- 各部の緩みチェック
- (2stの場合)混合燃料の作成
- トランスポンダー(タイム計測機)の取り付け
と言ったところでしょうか。
でも、何かあるとその状況は一変します。
雨が降れば・・・
- タイヤ交換(ほとんどの場合はホイールごと交換、場合によっては組み換え)
- セッティングの変更
転倒すれば
- マシンの掃除
- マシンの修復
が発生します。このあたり、かなり臨機応変な対応が求められちゃいます!くれぐれも慎重に。
あなたがそのネジをなめてしまえば、
それが原因でDNS(出走せず)になってしまう事すら、
あるんです。
ピットクルーのお仕事その4:車検。
車検?何ソレ?
そう、レース前には車検があるんです。この車検は各都道府県に存在する陸運事務局、通称陸自・・・ではなく、サーキットの中に用意されている車検施設で行われます(筑波サーキットだったら1コーナーの内側です)。
何をするかというと、
- マシンのチェック:ワイヤリングはされているか、緩んでいる場所はないか、ブレーキは効くか、スプロケットカバー等が取り付けられているか、車体番号は届出と一致しているか、その他レギュレーション違反はないか
- ヘルメットは規格品か、傷がついていないか
- レーシングスーツやブーツ、各プロテクタに異常はないか
等々をチェックされます。この時、ライダーは車検には付き添いません、拠点でのんびりしてもらいましょう。大抵の場合ピットクルーは二がかりで一人はマシン、一人は装具を担当してえっちらおっちら拠点と車検場を往復します。
結構混雑しますから、出来るだけ早くならんでさっさと通すのがピットクルーの腕の見せ所。すんなり通れば気分最高、突っ込まれると大騒ぎになります・・・レギュレーションブックをキチンと読んでおくこともまた、ピットクルーの仕事と言えるでしょう。
ピットクルーのお仕事その5:スタート前チェック。
さあ、いよいよ決勝目前!
ここまでくればもうレースは始まったも同然・・・なのですが、もう一つ関門があります。それがスタート前チェック。レース直前の車検だと考えて頂ければOKです。なぜか車検は合格してるのにここで引っかかることもあるんですよね・・・
このチェックはマシンの各部の緩みなどの確認がメインです、テントの下で左右から検査員にあちこちチェックされ、ここでOKが出て初めてレース決勝のグリッドに入る権利が得られるんです。
スタ前チェックそのものは取り立てて大変なことはありませんが、合間を見てバイクをスタンドに立てて発電機を回してウォーマーを掛けて・・・とレース気分盛り上がるタイミングですね。
ピットクルーのお仕事その4:グリッド上で最後のお手伝い。
さあ、慌ただしかった予選、スタ前チェックも完了していよいよレース、決勝です。
あなたはマシンを押し、肩にスタンドをひっかけてピットレーンからグリッドに移動します。グリッドはすでに掲示板に発表されています、ちゃんとチェックしてますよね?
指定されたグリッドにマシンを止めてスタンドを前後掛けて、タイヤウォーマーを巻きます(アマチュアレースの場合グリッド上での発電機使用は禁止されていて、余熱で温めるだけの場合が多い)。
仮にウォーマーを巻かないと判断した場合であっても、この時もライダーにマシンを支えさせたりしちゃいけません。結構コレ疲れるんです。
もしあなたが美しい彼女・奥さん持ちであれば、大きな傘を持たせてライダーに差し出してあげるのも素敵かもしれません。
フロントロー前方では、サーキットレディーの方が5分前、3分前等のボードを差し出しています。サーキットDJによるライダー紹介が始まりました。
いよいよ1分前、ピットクルー退場が告げられました。素早くウォーマーとスタンドを取り外してライダーに最後のサムアップ。ひらりとピットウォールを飛び越えてコースからピットに退避します。
あとはスタートを見守るだけ、です。
ピットクルーのお仕事その7:マシン受け取り。
レースが終わりました。貴方がサポートするライダーは転倒もなく無事帰ってきました。
疲れ切ったライダーからマシンを受け取りライダーを解放してあげましょう。
もし、ライダーがが入賞していたら、マシン受け取りはピットロード、またはホームストレート上です!ライダーをねぎらいながら胸を張ってマシンを押し、仮表彰式へ向かいましょう!一緒にシャンパンを浴びてから車両保管を済ませ、拠点に戻ります。
もし、ライダーがが入賞していなかったら、マシン受け取りはピットロード出口です。お疲れ様、ナイスラン!と声を掛けて拠点へ戻りましょう。
もし、ライダーが転倒していたら・・・運搬車(通称ドナドナカー)で戻ってきたマシンを受け取り、ライダーがもし救急センターにいるのであれば迎えに行き、とこれまた臨機応変に活躍する必要があります・・・
勝とうが負けようが、レースはレース。勝者にもそうでない人にも、ドラマがあります。後片付けをして撤収しましょう。
お疲れ様でした!