メンテンナンススタンドはレーシングマシンのメンテナンスには欠かせません
たとえ乗り手がアマチュアのサンデーレーサーだったとしても、レースに参加せずスポーツ走行に参加するだけだったとしても、愛車をメンテンナンススタンドに上げて整備する機会は多くあります。
フロントフォークのオーバーホールだったり、タイヤの組み換えだったり。
まあそもそもサイドスタンドを撤去している場合がほとんどのサーキットバイクは自立しませんから、メンテナンススタンドは必須なんですけどね!
メンテナンススタンドは
- フロント用
- リア用
- 車体用
と大きく分けて3種類に分類できますが、細かい仕様まで含めるとさらに複数に分類され、それぞれによってできること、できないことがあります。
必要に応じ買い足してもいいのですがそれなりにお金がかかりますしかさばるし、ということでこのテキストでは
メンテナンススタンドの傾向と対策
についてまとめます!皆様のサーキットライフに少しでも役立てば幸いです。
どのメンテナンススタンドで何ができるのか?
まずはメンテナンススタンドの種類と、それぞれができること・できないことを纏めます。
それぞれのメンテナンススタンドの詳細は、以下にて説明します。
(凡例-〇:できる/×:できない/△:できなくはない)
フロント用 | リア用 | 車体用 | ||||||
フロントスタンド | フロントワンタッチスタンド | フォークアップスタンド | ホイールクランプ | リアスタンド | チョイがけ | ステップスタンド | ||
フロント | ホイール着脱 | 〇 | 〇 | 〇 | × | - | × | × |
フォーク着脱 | 〇 | 〇 | × | × | - | × | × | |
ミツマタ着脱 | × | × | × | × | - | × | × | |
タイヤウォーマー装着 | 〇 | 〇 | 〇 | × | - | × | × | |
ブレーキ回り整備 | 〇 | 〇 | 〇 | △ | - | △ | △ | |
リア | ホイール着脱 | - | - | - | × | 〇 | × | 〇 |
サスペンション着脱 | - | - | - | × | × | × | 〇 | |
スイングアーム着脱 | - | - | - | × | × | × | 〇 | |
タイヤウォーマー装着 | - | - | - | × | 〇 | × | 〇 | |
ブレーキ回り整備 | - | - | - | △ | 〇 | △ | 〇 | |
携帯性 | △ |
〇 | 〇 | × | 〇 | 〇 | △ | |
安定性 | 〇 | △ | 〇 | 〇 | 〇 | △ | 〇 |
フロント用メンテナンススタンド
フロント用メンテナンススタンドの目的は、フロントタイヤを浮かすことです(当たり前)。
1.フロントスタンド
バイクのミツマタの下に空いている穴を利用してバイクのフロントを持ち上げるタイプ。これがあれば大抵の整備ができてしまいますし、安定性に優れているのでバイク屋さんでもサーキットのピットでもよく見かけるタイプ。
※左側のマシンのフロントに掛かっているのがフロントスタンド。重整備も可能です。
メリット:
- ミツマタ取り外し以外のすべての作業が可能
デメリット:
- 結構かさばる。大きくて保管・持ち運びが大変。
- 高い(比較的)
以下、サーキットで見かける順にランキング。
性能と価格のバランスの良さが光るのはJ-TRIP。大阪にあるバイク部品・用品の企画/開発/製造/販売を行っている会社ですが、メインの製品はメンテナンススタンド。ほぼ、専門メーカーと言っても差し支えないでしょう。その他にもサインボードなどのレース関連用品を取り扱っています。
リアもそうですがメンテナンススタンドとしてのシェアは恐らくナンバー1。塗装も厚めであり比較的剥がれにく人気があります。
バトルファクトリーはタイヤウォーマーでも紹介した、国産にこだわるレーシング用品メーカー。アフターサービスの良さはネットでも評判がよく、根強いファンがいます。ステンレス製でさびにくい(というかさびない)メンテナンススタンドなんて、よく使われ方を知っているからこその製品ですね。
その他、Amazon、Webikeで見つからなかったのでリンクを張っていませんがアストロプロダクツのフロントスタンドもまあ、使えそうです(俗にいう1万円スタンド)。実際にショップで見てきましたが作りはまあまあ、塗装はちと薄い感じ。
使ったら壊れたという口コミ情報もあり重量級マシンにはお勧めできませんが、250ccのような軽量級マシンには使えそう。
2.フロントワンタッチスタンド
ミニバイクでよく見かける、簡易的にフロントを上げることができるスタンド。
フロントスタンドと同じようにミツマタ下部の穴を使用します。てこの原理で比較的力を必要とせず上げられるフロントスタンドと異なり、フロントワンタッチスタンドは腕力(脚力?背筋+腹筋?)でバイクをえいやっと持ち上げなければなりません。
メリット:
- バイクのフロントを上げる機材中間違いなく最軽量
- 嵩張らず持ち運びが楽な割に、フロントフォークの取り外しすら可能
デメリット:
- セットするときに体力がいる。事実上250ccが限界
- フロントワンタッチスタンドでフロントを上げた状態でバイクにはまたがれない
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ここがポイント
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もしあなたが250ccでサーキットを走っているならば、このバトルファクトリーのフロントワンタッチスタンドはよい選択となるはず。フロントワンタッチスタンドでフロントを上げた状態でバイクにまたがれない(重量に負けてスタンドが曲がる)という制約はあるものの、フロントフォークの取り外しを含めた重整備が可能です。
このスタンドを掛けるときに体力が少々必要ですが、250ccならば全く問題はないでしょう。それを補って余りある軽量、省スペース。お勧めです。
3.フォークアップスタンド
バイクのフロントフォークの下にある穴を利用して、フロントフォークを下から持ち上げるタイプのスタンド。
サーキットでは大活躍するスタンドです。
メリット:
- コンパクトで保管・持ち運びが容易
- タイヤウォーマーを掛ける、タイヤを交換するなどのサーキット整備に最適
- リアスタンドと併用することで、リフトアップしたバイクにまたがっても大丈夫なくらい安定する
デメリット:
- フロントフォークを取り外すことができない
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ここがポイント
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そうなんです、「バンクセンサー.net」的にお勧めできるフォークアップスタンドはJ-TRIPのみ。ネットを探すと「フロント・リア兼用スタンド」などが売られていますが、それはお勧めできません(理由は後述します)。
サーキットにおける取り回し、つまりスペースの限られたピットや機材一式を担いで(担ぎゃしないか)移動しなくてはならないグリッド上など、重量と体積が問題となるシーンでは大活躍するフォークアップスタンドですが、欲しいならばJ-TRIP一択、と断言してしまいましょう!
サーキットではタイヤは頻繁に外しますがフォークを抜くような整備はあまり発生しないので、使い勝手は最高です。私も愛用しています。私のトランポは軽バンでモノがたくさん積めないので・・・。
ちなみに、「フォークアップスタンドではフロントタイヤは取り外せない」といった記述をネットで見かけたことがありますが、そんなことはありません。フォークアップスタンドでフロントタイヤを外してレインに組み替える、なんてことはサーキットでは日常茶飯事です。恐らく傾いたときにフロントフォークが左右ずれて縮んでしまうので転倒してしまう、と言いたいのでしょうけれど左右のフロントフォークのボトムケースはフェンダーやスタビライザーでそれなりに固定されています。
そもそもフロント用のメンテナンススタンドはリアをリア用メンテナンススタンドで上げて固定して使用する前提ですから、フォークアップスタンドを使用しつつアクスルシャフトを抜いたからと言って、多少左右から力を入れてもコケることはありません。
4.ホイールクランプ
ホイールクランプは少々珍しいタイプのスタンドで、これを使ってもフロントタイヤを持ち上げることはできません(!)。このホイールクランプにフロントタイヤを突っ込むと、マシンが直立する「だけ」という代物です。
コレ、確か15年くらい前に世にでたスタンドでして、当時は確か5万円くらいした高価なものでした。例によって〇クリ、というか類似品が大量に出回っているうちに本家製品が消えてしまった・・・という珍しいスタンドです。したがってJ-TRIP等の有名メーカー製のホイールクランプは、存在しませぬ。
メリット:
- ものすごく簡単に、バイクを直立させることができる
- これでフロントを固めてからリアにメンテナンススタンドを噛ませれば失敗はない!
デメリット:
- フロント周りの整備に全く使えない
- タイヤウォーマーも巻けない
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ここがポイント
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ここがポイント
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え、フロント周りの整備ができない?じゃあ何に使うの、とおっしゃるかもしれませんが、何しろレーシングマシンはサイドスタンドがありませんから(あっても外してる)、これはこれで結構使い道あります。
ピットに置いといて、走行から戻った時にホイールクランプに突っ込んで立てる
スポーツ走行が完了した後の、ヘロヘロに疲れている状態でもこれがあれば安全にバイクを立てることができます。まあ、そのあとにタイヤウォーマー巻くためにスタンドを入れ替えないといけないんですけど。
トランポに置いといて、バイクを積載するときにホイールクランプを使う
これ、とても便利です。バイクをトランポに積み込むというのは転落の可能性のある難しい作業です。ラダーレールを使って何とかバイクをトランポに押し込んだあと、片手でバイクを抑えながら三角スタンドを差し込んで・・・というシビアな作業をしなくても、ホイールクランプをトランポにおいておけばそこにバイクを差し込むだけでバイクは直立します。あとはゆっくり丁寧にタイダウンでバイクを縛り上げればOKです。
というように、限られた用途であればとても便利なホイールクランプなんですが。
レーシングタイヤを使用している場合、長期保管をするとタイヤがホイールクランプに張り付きます!
特にトランポ内でホイールクランプを使用している場合、タイダウンの締め付けも合わさって強烈な張り付きが発生します!
タイヤをラップしてからホイールクランプに入れる、テフロンテープなどを使用してタイヤとの接触面を保護するなどの対策が必要です。ちなみにガムテープでは張り付きを防止できませんでした。べりっとはがせばはがれるんですが。ご注意を。
長くなりましたが、フロント用メンテナンススタンドはこんなものでしょうか。
リア用メンテナンススタンド
リア用メンテナンススタンドの目的は、リアタイヤを浮かすことです(違ってたら大変だ)。フロントと違って構造は1種類のみです。が、本体の形状、フックの形状などがいくつかあり選択は結構ややこしいです。
1.リアスタンド
※錆び錆びの汚い写真でごめんなさい
基本的にはスイングアームを持ち上げることでリアタイヤの取り外しなどを可能とするものです。ですが、スイングアームの形状によって、「リアスタンドの受け」の形状が異なります。
あなたのバイクに合わせて受けを選ばないとなりません。
リアスタンドの受けの形状
L字受け
L字受けはプロアームを除くほぼすべてのスイングアームで使用することができます。バイクを選びませんのでこれを買っておけばほぼ間違いはない・・・のですが、後で説明するV字受けよりもズレやすく、特にスタンドを上げている最中にずれると転倒の恐れもあります。
まあ、慣れてしまえさえすればそれほど難しくはないのですが・・・
V字受け
V受け(フック受けともいう)は、スイングアームに専用のスタンドフックを取り付けて使用します。
あなたのバイクのスイングアーム後端下側に、M8のめねじがあればこの「スタンドフック」を取り付けて、V字受けを使用することができます。先に書いた通りL字受けよりはズレにくいため人気があります。最近のバイクにはこのスタンドフック用のめねじが用意されている場合が多いので特によく見かけますね。
私個人としてはL字受けのほうが好みです。わずか、ごくわずかですがスタンドフックを取り付けることでバネ下であるスイングアームの重量が増えてしまいますから。
シャフト型
もしあなたのバイクのリアアクスルシャフト(リアホイールを貫通しているシャフト)が中空だったら、このシャフト型のリアスタンドを使用することができます。実はこれが最強のリアスタンドで、スタンドとリアアクスルシャフトを細い棒(硬いです)で貫通させてしまうもので、絶対にリアスタンドがずれたり外れることはありません。
その使いやすさはJ-TRIPでは「はじめてセット」として販売していることからもわかる通りです。
ちなみに、シャフトを抜かずにくるりとリアスタンドを回してゴム紐等で固定すれば、リアスタンドを「付けたまま」バイクを移動させることができます。ピットからグリッドへ向かう時などに便利でして、サーキットでもよく見かける光景ですね。
その他、エンデュランス受け、などもありますがそれを選択するような方はこんなサイトは見ないと思いますので割愛。
リアスタント本体の形状
さらに、本体形状も以下の種類があります(名称はJ-TRIPのもの)。
ショート
これが基本形のリアスタンドです。何度も書いていますがJ-TRIPのスタンドは非常に品質が良く、また価格も競合製品と比べれば高めですが機能を考えたら十分にリーズナブル。
ロング
ショートタイプと比較して、足で踏む部分のアームが長めになっています。重量級マシンに最適・・・ではあるのですが、長いということは踏みにくい(特に身長が低く足が・・・な方は特に)ということでもあり、個人的にはこの長さは不要かなあ、と思います。
ナロー
ショート・ロングよりも幅が50mm狭いタイプ。
ワイド
ショート・ロングよりも幅が50mm広いタイプ。V-MAX1700などに適合。
ではお勧めランキング。
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価格は高めだが信頼性は抜群
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いわゆる「フロントリア兼用でない」五千円スタンド
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リアもあるぞ!錆びない!
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またまた長くなりましたが、リア用メンテナンススタンドはこんなものでしょうか。
車体用スタンド
車体用スタンドの目的は2つあります。
- サーキットで走行の合間にバイクを保持するための「チョイがけ」
- スイングアームを外すなどの重整備のためにステップバーを使用してリアを上げるための「ステップスタンド」
では、見ていきましょう。
チョイがけ
サーキットを走るマシンは大抵バックステップを付けています。バックステップはほぼステップバーは可倒式ではなく固定式なので、このステップバーを使用してバイクを立てるものです。
三角形またやT字型をしていて、簡単にステップバーに差し込んで使用できます。比較的安い製品が多くどれを買っても同じ。
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ステップバーを使用するタイプ
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ステップスタンド
リアスタンドはスイングアームを使用してバイクを立てるため、リアサスペンションを取り外したりスイングアームを取り外したりすることはできません。
そんな時にはステップスタンドを使います。車整備用のいわゆる「馬」をで代用することもできます(自己責任でどうぞ)
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リアの整備はこれ一つでOK
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他、もっと大がかりな整備用にフレームとサイドスタンドを使用してがっちり車体を支え、そのままリフトさせて前後同時にタイヤを外せるようなものもありますが、詳しい説明は割愛致します。サーキットでは使わないですしね。
サーキットでのお勧めメンテナンススタンドは?
以上、
- フロント用
- リア用
- 車体用
と説明させて頂きましたが、サーキットではどんなメンテナンススタンドを組み合わせればよいのでしょう?
サーキット遊びにおけるメンテナンススタンドへの要求事項は以下。
- 嵩張らないこと。
- サーキットですべき整備ができること
したがって、以下3点セットが個人的なお勧めです。
この3つのメンテナンススタンドを用意できれば、それが練習のスポーツ走行であれレース当日であれ、不足することはないでしょう。
え、だってフロントフォーク外せないじゃん!というならば、フロントスタンドをフォークアップスタンドではなくフロントスタンドに交換(サーキットでフォーク外すことはあまりないと思いますが)。
メンテナンス初心者へのお勧めメンテナンススタンドは?
これからサーキットを目指していろいろ自分でメンテナンスしたい!というのであれば。
この組み合わせで、まずはリア回りの整備にチャレンジしましょう。チェーンの張り調整、掃除&オイル注入などいろいろできます。
まずはフロントホイールクランプにフロントタイヤを差し込んでマシンを直立させ、その状態でリアスタンドを立てる練習をしましょう。自信がついたらフロントホイールクランプなしでリアスタンドを立ててみましょう。
それができるようになったらいよいよお好みのフロントスタンドを買うタイミングです!
買ってはいけない「フロント・リア兼用メンテナンススタンド」
はい、そうなんです。
- フロント・リア兼用メンテナンススタンド
は買ってはいけません。といいますか、買っても無駄です。なぜでしょう?フロントスタンドはリアをリアスタンドで上げて使用することが前提だから、です。
「フロント・リア兼用メンテナンススタンド」は、上下2つにパーツを分割することできます。
- リアを上げるときは、下のパーツだけで
- フロントを上げるときは、上下のパーツを組み合わせて
使用する・・・らしいのですが、フロントを上げるときに上下のパーツを使っちゃってますからリア用のスタンドをどうせ買わないといけないんです!
それなのに、ネット上のレビューではリアをメンテナンススタンドで上げずに(つまりタイヤで設置しているだけで)フロントをあげてしまい、
安定しません!倒しちゃいました!
などというレビューが・・・。悲劇です。また、フロント・リア兼用メンテナンススタンドは中華製の超格安のものしかなく、強度を含めた品質ももちろん信用できません。大切なマシンを壊しちゃうことになりますから、これらの製品は手を出さないほうがよろしいです。
買ってはいけない「メーカー不明の中華メンテナンススタンド」
同様に、仮にそれがフロント用、リア用とうたっていたとしても「メーカー不明の中華メンテナンススタンド」を購入してはいけません。
それが格安だとしても、です。
この手のメンテナンススタンドは素材をケチってるのか?強度に不安があるからか?使いやすくするためか?やたら低い場合が多く、スタンドアップしてもタイヤと地面の隙間がほとんどないものすらあります。
一般のメンテナンス用であれば「上げやすい」ということになりそれはメリットかもしれませんが(実際にそんなインプレを見たことがある)、タイヤと地面の隙間が十分にないとタイヤウォーマーを使用することができません。
この隙間が狭い状態で無理やりタイヤウォーマーを巻き付けて加熱すると熱が溜まって煙をふくことがあるんです。・・・はい、恥ずかしながら私の経験談。
これもまた大事件になりかねませんから、きちんとした(ここでご紹介したような)メンテナンススタンドを使用しましょう!
まとめ
サーキットを走るのであれば
- トランポを使用するライダー
- トランポを使用せず自走でサーキットに行くライダー
のいずれでも、愛車をサーキットランが可能なコンディションに保つために前後のメンテナンススタンドは必要です。安い買い物ではありませんが一度買えば5年やそこらは持ちますから、じっくりと最適なメンテナンススタンドを選択してください。
結構傷がついてそこから錆びちゃいますのでこまめにタッチアップペンで色を塗ってお手入れしてあげてくださいね!
では以上、メンテナンススタンドはサーキット用マシンの整備には必須である、ということで「メンテナンススタンドの傾向と対策」について解説いたしました。では!