ドナーエンジン。
さあ、修理開始。
といいつつ、もう1基のエンジンをばらします。どーして?
クラックの入ったクランクケースはもうどうにもなりません。溶接しても、また振動を受けるとクラックが再発する場合が多く、例えば希少なレア車であればそういった修理もあるのかもしれませんがサーキット専用マシンではその選択肢はあり得ません。
新品のクランクケース・・・は非常に高価ですしそもそもSRX250のクランクケースは欠品です。
ネットオークションでさくっと中古エンジンを手に入れちゃいましょう。手に入れた中古エンジンをばらして、クランクケース左右(左右セットですよ!)を流用するのです。
この手のマシンの中古エンジンは比較的安価ですし、部品取りにも使えますから(細かい部品類やタペットシムなども手に入る)ので、一石二鳥ですね。
ちなみにこいつは恐らく「割られたことがない」エンジンです。各部のボルトが「鍋ネジ」であることがわかります。
ドナー分解。
んでもって、どんどんばらします。
ばらした部品は
- 取っておきたいもの
- 捨てるもの - 鉄
- 捨てるもの - アルミ
- 捨てるもの - それ以外
に分類します。捨てるものの鉄とアルミ、は近所にある○○金属、といったところに持って行くと買い取ってくれる場合があります。ネットで調べてみましょう。うちの近くには1件ありまして、だいたい缶コーヒーから缶ビールくらいにはなります。
取り外したケースを洗浄してみると・・・
ん、アタリだ!
外したケースをチェック。
SRX250のケースには複数の種類があって、クラックの入った「クランクベアリングハウジング」の補強の入り具合に違いがあります。
つまり、アタリとハズレがあるんですね。
幸いなことにコイツはアタリでした!移植には最適なクランクケースです。
・・・色が黒であることを除けば(笑
腰下オーバーホールの肝、クランクベアリングの交換。
腰下オーバーホールの肝は、以下にクランクシャフトをスムースに回すか、に尽きます。
そのためには
- クランクシャフトの芯出し
- クランクシャフトベアリングの交換
- クランクシャフトの組み付け
が必要です。
クランクシャフトの芯出し、は外注に依頼して行います。ご自分でトライされる勇者もいらっしゃいますが、実はクランクシャフトの芯出しは比較的安価なのでここはプロに任せます。
さてクランクシャフトベアリングの交換です。
まず、新品のベアリングを購入し、ビニールで包んでご自宅の冷蔵庫の「冷凍庫」へ放り込みます。ベアリングはメーカー純正品でなくとも、鋼材店で購入できますがクランクケースに使用されているベアリングはC3等の精密級である場合が多いので気を付けてくださいね。見分けるすべがわからない、という方はメーカー純正を(高いですが)購入したほうが無難です。
古いベアリングはベアリングプラーなどを使用してできるだけ「垂直」に抜き出します。ここで強引に叩きだしてしまうとベアリングハウジングが痛みます、痛んだベアリングハウジングは次のベアリング挿入時にトラブルを起こすネタになります。
径が大きすぎるなどでベアリングプラーが使えない場合は、当て板をいれて慎重に叩きだします。
ベアリングの挿入は、「叩き込みません」(前に書いた「エンジンは組めないけど他はできる」と自称する方は、こういうベアリングを無造作に叩きだしたり叩き込んだりしちゃってる場合が多いです)。
ご自宅のカセットコンロを取り出し、その上に入念に脱脂した(脱脂してくださいね、でないと燃えます(笑)クランクケースを置きます。クランクケースを温めて「焼嵌め」を行うためです。
焼嵌め温度の目安とするためにケースの凹んだところに水を入れ、沸騰するのを待ちます。
実際のアルミ鋳造品に対する焼嵌め温度は120度近辺らしい、まあ100度でよいでしょう。
スコン、と入るのです。
クランクケース鍋(笑)で水が沸騰したら、ダシを取り・・・ではなく。
冷蔵庫からベアリングを取り出し、コンロの火を止め、ベアリングをベアリングハウジングに落とし込みます。恐らく、すとん、と入るはずです。ちんたら作業してるとベアリングにも熱が入って膨張しちゃいますので手早く、正確に、ダメな場合は軽く小突いちゃえば入ります。
全てのベアリングを入れたらクランクシャフトをクランクシャフトインストーラー(大抵、プラーと兼ねてる)で引っ張り込みます。
クランクシャフトインストーラー・プラーはめったに使用するものではありませんし安くはありません。
が。
ここでケチってクランクシャフトを叩き込んだら、外注に出した芯出し済クランクシャフトも、丁寧に焼嵌めしたベアリングもすべてパーですので・・・。
祈りを込めつつ、ケースを閉じます。
さあ、忘れ物はないですか?
全部のパーツを正しく組み込んだことを確認しつつ(サービスマニュアルと分解時に記録した画像で確認します)、祈りを込めてクランクケースを閉じます。
クランクケースの締結ボルトはサービスマニュアルに記載されている通りの手順で締めつけます。ここでは言うまでもありませんが
- トルクレンチ
が必要です。サービスマニュアルにも書いてありますが、一気に指定トルクで締めるのではなく、3回程度に分けて少しずつトルクを掛けます。
ここでポイント。
トルクを掛けていくとクランクシャフトの回しが渋くなる場合があります。その場合は(めんどくさがらずに)いったんボルトを緩めて、プラスチックハンマーでケースを左右から軽く叩いて位置を合わせ、再度トライします。
いいところで組み上げると、クランクシャフトは自重だけでくるくる回転します。
エンジンを積みまーす。
降ろした方法と逆の手順で、エンジンを積みます。
が、人によってはエンジンを完全に組み立ててから積んだほうがよい、との意見もあり、これは実際に手を動かしてやりやすい方でどうぞ。
まあ、どっちでも大丈夫です。
完成、です!
あとは外したヘッドやらなにやらを組み付けて完成、です!
腰下オーバーホールは確かに厄介な印象をうけますが、単気筒空冷250ccであれば、日常の合間の時間を見つけてコツコツ進めることで個人でも十分対応可能な範囲です(もちろん、プロとは仕上がりが違うと思います)。
芯出ししたクランクシャフトはクルクルとスムースに回ります、次の練習走行が楽しみですね。
ぜひトライしてみてください。
余談。
クランクケースの締結ボルトをプラスの鍋ボルトから変更する場合。
舐めにくくトルク管理がしやすいのは六角穴付きキャップボルトです。
が。
ここでホームセンターで購入したステンレスキャップボルトを使用してはいけません。標準的なステンキャップボルトのA2-70の強度はだいたいT6と同じです。エンジンのクランクシャフトを締結しているボルトは確かに強度区分指定はないのですが、ステンレスキャップボルトではちょっと不安が残ります。
お勧めは
- 鋼(SCM 435) の三価クロメート黒色めっき処理ボルト
です。少々重いですが強度区分は10,9(オーバーキル!)。本来ボルトにめっきを掛けると強度が落ちるため好ましくないのですが、この処理は処理後でも十分な強度を保ちます。どこにでも使える汎用ボルトとしては多少重い、意外はお勧めできるボルトです。
ネットによくあるWebショップで購入できます。